ウェブと紙


 
大信州酒造さんのウェブサイトがリニューアルされ、公開となりました。
 
いとぐちでは大信州さんの紙のパンフレットを制作させていただいてきました。このいとぐちウェブの記事を書くために振り返ったら、お仕事させていただいてもう5年、早かったという感覚とじっくりとすぎていった感覚と、両方の感覚や思いがあります。充実していた、ということでしょうか。
  
今回のお仕事は、それをベースにウェブサイトに落とし込むこと。
正直いって、大信州さんのパンフレッは厚いです。文章が長いです。ほかの会社だったら「短くしましょう」と言ったと思います。でも、田中社長をはじめ、蔵人のみなさん、契約農家のみなさん、そして熱烈なファンのみなさん…それぞれの思いが濃くて、濃くて。
 
田中社長は、大量生産の安酒というイメージを払拭すべく、とにかく品質を追い求めてきた人。一つひとつの言葉に、つくり手として、経営者としての情熱と愛情が満ちています。蔵人さんたちは、本当に気持ちのいい人ばかり。顔を見た途端に笑顔になってしまう。しばらくぶりに会うと、なんだかとっても懐かしくてうれしい。契約農家さんと蔵人さんたちの関係は、美しすぎる。お酒の先にある飲み手を、農家さんも一緒に見つめている姿勢にぐっときます。ファンの熱さにも驚きます。長野、松本、東京、札幌などで開かれる酒の会「手いっぱいの会」では、たまたま隣になったおじさんが、見ず知らずの私に、蔵人さんのことをまるで自分の子どものことのように自慢します。毎年です。しかも、毎年ちがうおじさんが。
そういうみなさんに会うたびに、大信州の文章は長くていいんだな、言葉をありったけ紡ぐのがいいんだなという気持ちになっていきました。
 
ここのところ、ウェブサイトの記事を書く機会があるのですが、ウェブサイトの言葉は消費される言葉であることが多いように思います。紙の文章だって、単行本とか、文庫本とか、雑誌とか、「購入する」ということを考えれば消費する言葉かもしれない。でも、なにか、紙にはひっかからないのに、ウェブサイトにはひっかかるところがある。検索されて、ヒットしなければいけないというところなのか。
検索でたどり着いてもらえなければならない。そんなことウェブサイトの当然の責務であるとはわかっていながら、一方で言葉がどんどん不自由になっていくように感じていました。なんか、窮屈だな。だから(ギャランティをいただいて仕事として)ウェブサイトの記事を書くことになんとなく、くさくさとしていました。

でも、そんなときにできあがった大信州さんのサイトをあらためて見返していると、大信州のつくり手のみなさんや、ファンのみなさんのことを思い起こしつつ、大切だと思う言葉をたくさん積み重ねられたのではないかと思います。そうやってみると、消費されるサイトとは、少し違う。いや、消費されるサイトだってあっていいと思うし、適材適所でいろいろあっていいんだと思う。でも、大信州さんのサイトは消費されるサイトではない気がする。まだ、紙とウェブの立ち位置について、模索する日々は続くと思うけれど、いったん気持ちは落ち着きました。

  
よろしければご覧ください。
大信州酒造株式会社
 
そして、今回のウェブ制作会社のエルさんの仕事が、最初から最後までとても心地よかった。こういう仕事をできる人になりたい。(緒)
  
制作|スタジオエル  テキスト|山口美緒(編集室いとぐち)