りんごの懐かしい香りと最近のなやみ



りんごの季節がやってきました。
 
母方のおうちが果物農家で、おじいちゃんおばあちゃんが、りんご、プルーン、なし、洋梨、ぶどう、プラムなどなど多様な果物を育ていました。小さい頃、母が食事の終わりに果物ナイフでそういう果物をむいてくれることが普通の毎日。今もたまに帰省すると果物をむいてくれる母。幸せとか、幸せじゃないとか、思わないくらい、普通の風景。当たり前すぎて気づかない、でも極上の幸せな風景ですが、長野ではそういうおうち、多いのではないでしょうか。
  
果物の思い出はたくさんありますが、なかでも、祖父母のおうちの納戸のとてつもなく良い香りが忘れられません。香りを成すのは、たぶんりんごと、古民家ならではの建物なのか、木製のりんご箱なのか、木の香り。織り混ざってなんとも郷愁を誘うすばらしい香りとなるのです。りんごを育てているうちならある香りで、たまに取材先でふっとこの香りが鼻をかすめると、「あっこの家…」と思うのです。香りが呼び起こす風景。これもエディブルスケープと言っていいのかな、それともスメルスケープと言うのか。
 
懐かしいりんごの記憶。でも大人になって、実は食べる機会が減っています。というのも、りんごを食べるときの音が、年々苦手になっているのです。味は大好きなのに、りんごならではの「ざくっ!ガリッ!」というおいしい音がどうにもだめで。黒板を爪で掻き立てる音がいや!という人が嫌がるような感覚に襲われるのです。ぞくぞくぞくっ!としながら、口に運ぶ。
 
長野の方言でいう、「ぼけた」りんごだといやな感覚はないのですが、残念ながらおいしいとも思えない。そんなわけで、数年前から、泣く泣くガリガリのりんごを諦め、いただいたりんごはジャムなど火を入れていただいています。今年の第一弾はガラス作家の青森出身のかおりちゃんより、 青森のりんご。とれたてを申し訳ないとおもいながらタルトタタンに。タルトタタンはおいしい。大好きなKEINOSHINのタルトタタンはまったくもって異次元に絶品だけれど、自分でつくったものも旬の食材の恩恵と自らの欲目にあってそこそこの味。
 
そうはいっても正直いって、りんごは生がおいしいと思う。個人的には王林が好き。りんご王国で育ち、りんご王国に暮らすのに悔しいなあ。いつか克服するかもしれないけれど、まあ、せっかくなのでまだしばらく温めたりんごを突き詰めてまいります。(緒)