春とボールとファスナーと


 
春は、外に出たくなる。
そういう気持ちを揺さぶるもの。
 
今年の長野の春はひと月から半月ほど早いそう。飯山の菜の花まつりもだいぶ早まったそう。しかし、早まったからこそ、コロナの影響で中止になるかもという難しい状況なんだとか。
コロナを知り得ない裏庭の動物たちは、ただただ、春がうれしいのかもしれない。ここのところ、連日、フォックス先生(近所のきつねさん)がボールを持ってきます。フォックス先生の収拾物、普段は子どもの靴下(しかも片方)が多いのですが、春はボールの季節のようで、野球のボールが2つにソフトボールのボールがひとつ。アグレッシブに遊びたいのかな…近所の少年少女たちはたまったものではないと思う(靴下片方も困るとは思う)。
 
ここのところ、土日も引きこもって原稿を書いているわたしは、「フォックス先生を見習って、外へ!」と思い立ち、散歩がてら近所の郵便ポストに手紙を出しに行くことに。木戸に立つと、隣の隣のおうちから、おばあちゃまが「行ってきます〜」 と出かけられたところでした。春ですもんね、お出かけですよねと、それとなく見やると…

はっ!! キャリーケースのファスナー! 全開ですよ!!!
 
こーんーにーちーはー!
かーばーんーー!
あーいーてーまーすー!
 
と駆け寄ると、自身はカバンを「まあ」と一瞥しただけで閉じることもなく、「あらあ、見たわよ。この前ほら、館報城山!」と。
 
つい先日、地元の公民館報「館報城山」にちらっと載った写真をみてくれたのだそう。区の仕事で編集委員を仰せつかっているものの、いいですね、面白いですねくらいしか言ってないのですが、「館報城山」は、公民館報としてとってもすばらしい媒体です。土地の歴史をこんなに(しかも無料で)知ることができるってすごい。この春に終わってしまう戸隠地質化石博物館の田辺智隆先生の連載の、興味深いことと言ったら。終わってしまうのが、残念すぎます。城山公民館の館長先生による歴史シリーズも知らないことばかりで勉強になります。

さて、おばあちゃまにどちらまで? と尋ねると、行き先は私が今向かっている郵便ポストがある近所のJA。
その2階で開かれる電気(どうやらマッサージ)に出かけられるところでした。
電気、一緒に行きましょうよと誘っていただき、肩こり半端ないわたしは心揺さぶられましたが…「すぐ近くの郵便ポスト」を目的地に設定して出かけたため、事務所の鍵が開けっ放し。
 
「開けっ放しはだめだわ、次ね」と、おばあちゃま。
ぜひ! と、手を振って別れ、手紙を出してもう一度おばあちゃまの後ろ姿を見送ってみる。ああ…やはりキャリーケースのファスナは開けっ放し。
 
のどかな午後のひととき。
ほっこりはしたものの、わたしの玄関も、おばあちゃまのキャリーケースも、どっちも心配だったちょっと早い春の午後。(緒)