醸造メソッドへの渇望


 
長野県には酒蔵も、ワイナリーも多くありますが、今、非常に積極的な動きがおきてきて面白いのがりんごのお酒をつくる「サイダリー」です。発泡するシードルから、発泡しないスティルシードルのほか、フレーバーシードルなど、さまざまなものが生まれています。生み出すのも、ぶどうのワインをつくるワイナリー、シードル専門のサイダリーのほか、農家が委託醸造でつくってもらう農家のシードルと、その数は60を超え、銘柄もざっと調べた限りで120を超えています。
 
あまりにも急激に増えたシードルは、専門店ですらその実態の把握が追いつかないほど。そこで、長野県がシードルのパンフレットづくりに乗り出しまして、いとぐちではその制作業務の真っ最中です。
 
現在の信州のシードルシーンを際立たせる4つのサイダリーや農家などに取材していますが、先日出かけたのは「サノバスミス(son of the SMITH)」。大町の小澤林檎園の小澤浩太さんと、小諸の宮嶋農園の宮嶋伸光さん・優作さん兄弟、そして信州大学理工学部の現役大学院生の池内琢郎さん(通称博士)、そしてクリエイティブデイレクターの宇田川裕喜さんが仕掛けるサイダリーです。

「君たちにはフランスは伝統的すぎて面白くないだろう」というりんご栽培の恩師の言葉から、ポートランドへ。そのため、ほかのワイナリーやサイダリーとは一線を画しています。そして高い農業技術を誇る農家だからこそ、りんごの育種から取り組んでいるところにも驚かされました。醸造の設計も仲間たちで試行錯誤。ポートランドで開催されたシードルのイベントでは両農園から抽出した酵母を使ってシードルを醸造してもらったり、ポートランドのサイダリーには、日本酒酵母を使って醸造してもらったり、さまざまな取り組みをしています。このあたりはマニアックな発酵の知識を持つ博士がいるからこそなせることのよう。そして〝さよならシードル。〟〝クラフトギーク(おたく、マニア)に届けたい〟という言葉の選び方などに、宇田川さんの存在が大きく見えて来ます。偶然と必然のもとで集まった彼らの興奮が、取材のはじめから終わりまでぐいぐいと押し寄せてきました。
 
「僕たちのりんごをどう生かすか、それが醸造メソッドへの渇望へとつながっているんです」
 
インタビューの最後で小澤さん。渇望!格好いい。
松本ブルワリーと協力して、ホップサイダーにも取り組み中。目が離せないサイダリー、これからも楽しみです。(緒)